吸気について


「脈動効果」と「慣性効果」です。この二つをまとめて「空気の動的効果」と言います。脈動効果とは吸気バルブが開いた時に負圧の圧力波が生じてバルブ側から吸入口に向けて音速で伝播し、吸入口端で反転して正圧となって撥ね返ってバルブ側へと戻ってくるんです(ヘルムホルツの原理…パイプオルガンの音階(共振点)が違うのはこの原理なんだって!)。この時に正圧となって返ってきた圧力波が閉じようとしているバルブに向かって空気を押し込めるんです。
慣性効果とは動いていた空気が、空気の重さによってバルブが閉じ始めても止まることが出来ずにシリンダー内へ入り込もうとする現象です。

吸気も排気と同じように管の中を流れています。
吸気バルブ(ポート)が開くとフレッシュエアが燃焼室内に入っていきます。
まぁまずは難しいこと全然考えずに連続的にフレッシュエアが入っていると思ってください。
その時に突然バルブ(ポート)が閉じられたとしましょう。
バルブ(ポート)の手前で、もう今にも入ろうとしていたフレッシュエアAは、行き場をなくして立ち往生します。
そのすぐ後ろに次は僕の番だと待ち構えていたフレッシュエアBも、もう一歩前に出ちゃってるのに目の前には入り損ねたフレッシュエアAがいるもんだから前に進めない。
その後ろにはこれまた同じように入ろう入ろうとして待っているフレッシュエアCがいて・・・要するにバルブ(ポート)が閉じちゃったら、そのすぐ後ろの圧は上がっちゃう(陽圧になる)て言うことです。
このまま閉じたままだとそのうちこの圧は拡散して均一になります。
でも圧が上がったときにまたバルブ(ポート)が開いたら・・・その圧で押される形で吸気口からの吸気が促進されますよね。

これが吸気慣性効果です。

そしてこれは、吸気口に吸気管があるからこそ効果が上がります。
つまり、大気開放している吸気口では圧が上がろうにも逃げ場が広く開かれていますので上がりにくく、またせっかくわずかに上がった圧が一瞬にして拡散しますので、ほとんど効果はないに等しいと考えていいでしょう。
そして単位時間当たりの吸気量が同じなら、吸気管径は細ければ細いほど流速が増しますので、速いほうが効果は上がることは容易にご理解いただけるでしょう。
ですが、細すぎると吸気抵抗になりますので、吸気の流速を低下させることになりますし、単位時間当たりの吸気量を稼ぐことができなくなります。
これに関しても排気慣性効果同様に、細すぎても太すぎても効果は減弱するので「適切な径を選択する必要がある」と言えます。

さて、長さについてですが、吸気管が長いほうが吸気バルブ(ポート)が閉じたときにそこの空気の圧力は上がると考えられます。
当然ながらタイムラグはありますので、せっかく上がった圧が拡散してしまうより前に最後方からの圧が伝わったほうがいいので、吸気が速ければ速いほどその効果は高く、吸気が遅ければ遅いほどその効果は少ないと考えられます。
となると吸気管は、その吸気抵抗が吸気を阻害しない範囲で吸気管径は細く、吸気管長は長いほうがいいということになります。

そしてもう一つ、こうやって圧が上がったフレッシュエアは、多ければ多いほど次の吸気に有利です。
過給機が搭載されている車両ならそこで過給圧を上げられますが、特にNAではこの吸気管効果は重要になります。
できるだけ多くのフレッシュエアの圧を吸気管効果で上げるためには、吸気管全体の容積を増やしたほうがいいということになります。


「チャンバーパイプ」ってご存知ですよね。
あれは吸気慣性効果を期待したものです。(一概にそうとはいえませんが・・・)圧が上がった空気の溜めを作ることで、次の吸気に備えるものです。
そしてもう一つ、純正ならばどの車にもあるもの・・・それは・・・エアクリボックスです。
エアクリボックスのないむき出し型エアクリにすると、吸気慣性効果が薄れます。

実はこの吸気管効果と相対するものが車には付いています。それは・・・サージタンクです。
バルブ(ポート)が急に閉じることによって起こる圧の急激な変化を吸収させるために,その手前の容積を拡大して空気の溜めを作っています。
わざわざ作った吸気管効果,圧の上昇を,なぜサージタンクで打ち消すようなことを???

排気による慣性効果は効果を最大に発揮するリズムがありました。
排気慣性効果によって得られた排気バルブ(ポート)の裏の陰圧が最大になったときにバルブ(ポート)を開くのが一番効果的ですが、エンジンは絶えず回転数を変化させていますので、いつもちょうどそのタイミングで開くことは事実上不可能です。
なので、効果がある回転数が決まってしまいます。
それ以外の回転数では効果が低くなりますので、得意な回転数と不得意な回転数があることになります。

吸気慣性効果も同様で,圧が最大になったところで開くのが効果が最大になりますが、不確定な吸気圧変化を打ち消したいということがあるのではないでしょうか。
おのおのの燃焼室に入る吸気圧にばらつきが出るのもよくないでしょう。
できれば吸気圧変化は細かい脈を打たず、空燃比のコントロールがしやすい。
バルブ(ポート)によって吸気は断続的になりますが、その手前の空気の流れが断続的だと実際に燃焼室に入る空気の量を均一にコントロールすることが、あるいはセンサーでピックアップすることができなくなります。
圧を均一化するためにサージタンクが設けられていると思われます。

では吸気慣性効果はどこに活かされているのかというと・・・
スロットルの手前です。
もう一つは,タービンのコンプレッサーの手前です。
吸気慣性効果の話をするときに、吸気バルブ(ポート)で最初説明しましたが、実は吸気管効果を最大限に利用しているのはそこではありません。
スロットルの手前なのです。
スロットルを開いたり、閉じたりすることにより、閉じた瞬間に吸気慣性効果でスロットル手前の圧が上がります。
タービンのコンプレッサー手前も、アクセルオフで吸気が減ると回転数も落ちて排気も減りタービンの回転も落ちますからコンプレッサーの回転が落ちて吸気速度が遅くなりますので吸気管効果で圧が上昇します。
吸気慣性効果を得るためには、必ずしも吸気管を閉じる必要はありません。流速を変化させることでも効果が得られます。

これは排気慣性効果でも同じですね。
なので排気側のタービン後でも排気慣性効果は得られています。
スロットルの手前やコンプレッサーの手前で吸気慣性効果が得られるということは、チャンバーはそこに作るのが一番効率的でしょう。
そして、吸気慣性効果が最大に得られるシチュエーションとは・・・アクセルオフから再びアクセルオンしたときです。
吸気慣性効果によって、再加速時のレスポンスを上げることができるのです。

つまり吸気パイプが長いと、パイプの中の空気の量が多いので、慣性が大きくなります。
これは、流れ続けようとする力も、止まり続けようとする力も大きくなると言う事です。
低回転では、これが非常に有効に働いて、シリンダーに沢山空気を入れる事ができました。
ただ、パイプの中の空気が多いと言う事は、中の空気の総量が多く、重いと言う事でもあります。慣性が大きいと言う事は、逆に言うと、速度を変化させるのが大変だと言う事です。
これが、流速が遅くなる方向に大変になるのはいいのですが、速くなる方向に大変になると、エンジンの回転数を変化させるのが難しくなります。
つまり、回転数が上がるのも遅くなるわけです。回転数が上がりにくいと言う事は、つまり加速しにくいと言う事です。
もっと簡単に言うと、パワーが出なく、レスポンスも非常に悪くなるのです。パイプの中の、沢山の重い空気の流速を、短時間で変化させないといけないですから。

ですから、高回転型のスポーティーなエンジンは、大体パイプは短めにできています。
回転数が上がれば、それ程パイプが長くなくても、十分な吸気慣性効果が得られるのです。
むしろ、流速を変化させなければならない、パイプ中の空気の量が少ないので、レスポンス良く、回転数を上げたり、下げたりできるわけです。
高回転では、パイプを流れる量が多いので、流速も速く、むしろ長くすると、上記のデメリットの方が大きくなります。
ただ当然、低回転は犠牲になりますが。
質量を持つものの運動エネルギーは、1/2mv2で、速度が上がる程、2乗で大きくなります。つまり高速になる程、空気の流速を変えるのが大変になるわけです。
ですから、低回転時にはそれ程問題にはならなくても、高回転時には大きな問題となるはずです。

これらの要素から、何回転から、長さによるロスとゲインが入れ替わるのか、つまり、長さによる慣性効果の方が支配的なのか、短さによるレスポンスの方が支配的になるかが入れ替わるのか、が決まるはずです。
それによって、市販車の設計は、低回転、高回転が両立できる上手いバランスを見つけて決まるわけです。
これでむき出しのエアクリーナーなどを付けて、低回転のトルクが落ちた原因がわかりましたか?? 
もちろん、吸気温度が上がる事もパワーを下げる理由の一つです。
しかしそれよりも、計算された純正のパイプや、チャンバーなどの空気溜まりを取ってしまうと、吸気慣性効果が低回転で得られにくくなるからでしょう。
いかに、メーカーが上手く全回転数で、満遍なくパワーが出るように計算して、設計しているかがわかると思います。

さて、吸気慣性効果の説明はこんな所で理解できたでしょうか??
とにかく、空気には重さが有り、慣性がある事さえ常に念頭に置いておけば、大抵の事は理解できるでしょう。

 

 

トップページに戻る          個人最速理論に戻る